PM型ステッピングモータは、永久磁石ロータと電磁石ステータの相互作用で、電気パルスを一定角度の回転(ステップ)に変換するモータです。構造がシンプルで小型・低コスト、位置保持に強いのが特長で、プリンタ、バルブ、メーター、家電アクチュエータなどで広く使われます。
1. 基本構造
ロータ(永久磁石)
円筒状の等方性フェライト/希土類磁石を多極(N/S交互)に着磁。極数が多いほど1ステップ角は小さくなります。
*ハイブリッド型のように細かい歯は持たず、構造が簡潔。
ステータ(電磁極+巻線)
2相または4相が一般的。突極(歯)を持つ極片にコイルを巻き、相ごとにN/Sを切り替え可能。
相の励磁を順次切り替えることで、回転磁界を作ります。
エアギャップ/磁気回路
ロータ外周とステータ極の隙間(エアギャップ)で**磁束が引力(整列トルク)**を生み、ロータが最もエネルギーの低い整列位置に吸引されます。
典型例:2相・8極ロータ・12歯ステータ → 約7.5°/step(48ステップ/回転)。シンプルなPM型では**15°(24ステップ)や7.5°(48ステップ)**がよく見られます(構造により異なる)。
「写真の由来:5V/12V 28BYJ-48 ギア PM ステッピング モーター + ULN2003 ステッピング ドライバー ボード」
2. 動作メカニズム(ステップが生まれる仕組み)
相A励磁:相Aコイルに電流 → 対向するステータ歯がN/S化 → ロータのN/S極が最寄り歯へ整列。
相B励磁:相Bを励磁すると、磁気的「谷」が電気角90°進み、ロータは一定角度だけ回転。
順次切替:A→B→A反転→B反転…の順で励磁すれば、パルス=角度の比例で回る。
無励磁時:ロータ永久磁石とステータ歯形の相互作用でデタントトルク(コギング)が生じ、粗いながら機械的に止まりやすい。
保持トルクは励磁中に角度ズレを戻そうとするトルク、デタントトルクは無励磁でも生じる磁気吸着による微小トルクです。
3. 励磁シーケンスと駆動方式
3.1 基本シーケンス(2相例)
ワンフェーズオン(ウェーブ駆動):
A+ → B+ → A− → B− → …
省電力・トルクは小さめ。
ツーフェーズオン(フルステップ):
A+&B+ → A−&B+ → A−&B− → A+&B− → …
最大保持トルクが得やすい。
ハーフステップ:
1相と2相励磁を交互に → ステップ角1/2、振動を抑えやすい。
マイクロステップ:
A/B相に正弦・余弦波形で電流を連続制御(例:1/8, 1/16)。低速脈動と共振を低減し、滑らかに。
3.2 ドライブ回路
ユニポーラ:相ごとにセンタータップを持ち、トランジスタ1方向でON/OFF。簡単・安価。
バイポーラ:Hブリッジで電流方向を反転。同サイズでトルクが出やすい(銅利用率が高い)。
4. トルク・速度・精度の素性
トルク特性
低速域で静的保持トルクが大きい。回転上昇とともにインダクタンスで電流が追従しにくくなり、引込み/脱出トルクが低下。
→ 立上げは加速ランプ(S字)必須。
精度
ステップ角の累積誤差は小さく、1ステップ内の脈動(コギング・トルクリップル)が存在。マイクロステップで平滑化。
ハイブリッド型より分解能は粗め(7.5~15°が一般的)。
共振
構造的に**機械共振域(低~中速)**が生じやすい。2相同時励磁・マイクロステップ・ダンパで回避。
「写真の由来:Oukeda PM25 永久磁石ステッピングモーター OK25PM15-034A5 2相 1.8度 1A 12Ncm」
5. PM型/VR型/ハイブリッド型の位置づけ
PM型:永久磁石ロータ+シンプル歯形。低コスト・小型・分解能は中程度。
VR(可変リラクタンス)型:軟鉄ロータで磁気抵抗差を利用。常時デタント小、分解能は構造次第。
ハイブリッド型:歯付き磁石ロータ(ファインピッチ)。高分解能(1.8°/0.9°)、高トルクだがコスト↑。
6. 代表的な仕様の見方
相数:2相が主流。制御が簡単でコストバランス良。
ステップ角:7.5°/15°が多い(例外あり)。用途の分解能要求に合わせる。
定格電流/抵抗/インダクタンス:加速応答と発熱に直結。電流制限可能なドライバを選ぶ。
保持トルク/デタントトルク:保持力と停止時の微小コギングの兼ね合いを確認。
供給電圧:高めの電圧+電流制限で立上がり改善(di/dt向上)。
7. 適用例
家電・OA:紙送り、シャッタ、バルブ、ダンパ
計測・医療:小型ポンプ、試薬ハンドラ、位置指示
産機:小型アクチュエータ、表示機構、簡易搬送
8. 導入・選定の実務ポイント
必要ステップ角(分解能)と減速機構の有無を先に決める。
負荷トルク+加減速トルクを見積もり、保持トルクに30%余裕。
速度プロファイルに対し引込み・脱出トルク曲線で成立性を確認。
駆動はツーフェーズオン+マイクロステップが安定。
共振帯は回避速度に設定、必要なら慣性ダンパや機械剛性を強化。
発熱対策:保持電流の自動ダウン(50–70%)、放熱経路の確保。
まとめ
PM型ステッピングモータは、永久磁石ロータ×簡潔ステータの構成で、パルス=角度の直感的な制御、高い保持性、低コストを実現します。
励磁シーケンス(フル/ハーフ/マイクロ)と適切なドライバ選択、トルク・共振・発熱の基本対策を押さえれば、小型アクチュエーションを手堅く実装できるモータ方式です。用途の分解能・トルク・速度に合わせて、PM型/ハイブリッド型を使い分けましょう。

